駆け出し探偵記3

とある脳のメカニズムについて、 ベテラン先輩探偵が おしえてくれた。

未知に 恐怖を感じるのが 人間だそうだが、 私は 未知を探求することに 喜びを感じる。

未知の物、できごと。 はじめに見た瞬間 はそれこそ、 ほかの人間と同じく 「なんだこれは!」と 衝撃を受ける。 衝撃を受けたうえで、 よせばいいものを なぜだか気になって もう一度 見ようとしてしまうのだ。

その、 “はじめに見た瞬間” に人間の脳は、 軽いパニック状態に 陥るらしい。

タクシー追えない私(ワタクシー)

この日は、今までで一番長い 本番尾行だった。 調査中、対象者が 急に横断歩道を 走って渡り タクシーに乗った。 

対象者が 帰宅することを 予測し、 地下鉄の駅へ 向かうだろうと 確信していたのだが、 大きな間違いだった。

点滅する青信号。 走る対象者。 …を追う先輩探偵二人。 …の背中を見ながら 立ち尽くす私。

“行けっ!!行けって!!!! “

上司の 緊迫した声。 もうひとりの先輩は、 全速力で タクシーを捕まえて のりこみ、 対象者の

タクシーを追いかける。 体が動かない。 私を阻む 点滅する信号と 長めの横断歩道を、 はたして 自分の速度で 渡り切れるのかどうか 自信がなく 体が止まってしまった。

昔から 代謝と 運動神経だけは 良かったが(二度目の説明になる)、 何の役にも立たなかった

自分が不甲斐ない。

すべての物事には理由がある

自分の失敗で 置き去りにされた私は、 深夜の0時過ぎに 公園のベンチで 丸まって仮眠をとった。

先輩は二人とも 尾行を成功させて、 『暖かいところに入って待ってて』 と寛大な お心遣いまで下さる。

私は反省した。 この失敗には 必ず理由があるはずだ。 なぜ自分の 脳と体が 一時停止してしまったのか。 後に合流したときに、 上司が教えてくれた。

“経験にないことだから、 パニック状態になっとんねん “

なにかあれば 「貴様ぁ!」 「このポンコツ!」 「てやんでぃ!」 と まくし立てられる 現場の世界を 覚悟していたのだが、 上司は、違った。 冷静に、第三者の 視点で 「なぜ失敗したのか」を 教えてくれた。 ああ、そういうことだったのか。 工事現場の仕事で 右往左往して 参っていたのも、 それも、これも、 すべて。 新人がやりがちな 行き過ぎた 自己嫌悪ループから、 事前にすくい上げてもらったのだと 知る。

先輩… 自分、一生 ついていきます。 魚肉ソーセージ を食べながら。

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