駆け出し探偵記4

今日は、 上司が休みだ。 本番の調査の予定は 無いが、 もうひとりの 先輩探偵と一緒に 新規案件の 現地確認と 簡単な調査を することになった。 いつものように、 彼女の運転する 社用車が 迎えに来てくれる。  …おや? 空の景色が いつにもまして、 竜胆色の ビューティフル・ドーン。 小鳥のさえずりが きこえそうなくらいに 静かな一日が始まった。

あぁ、そうか。 今日は お笑い探偵が 欠席だ。 

(いじっているのではない。 新人目線の侘しさを 表現したいのだ。 あしからず。)

 

印象操作も仕事です

敦子(アツコ)さんは 前職が同業他社で、 探偵調査員歴が 私の人生キャリアを ゆうに超えている。 私よりも二歳年下だが 大人びていて、 勝手に五歳ぐらい年上だと 勘違いしていた。

…というか、 物腰とか 趣味の路線とかが、 どう考えても 実年齢の20代ではなく 40代を超えた、 しかも “オジサン” 風味 なのである。

いや、いじっているのではない。 人の印象というのは、 きっとその人の奥深さが 滲み出るものなのだ。

第一に 色々不詳なほうが、 探偵として 紛れ込むときには 強みになると思う。

コードネームがそろそろ欲しい

探偵調査員の 任務は、 尾行と報告書作成 だけではない。 今のところ シ〇ィーハン○ーのような殺しやボディガードは 請け負っていないが、 事件の聞き込み調査をしたり、 記事を書いたりもする。 スーパーフラットな 知識と洞察力、 そして自身の行動に 恐れを感じないメンタルを 駆使しながら 『毎回新しい任務』 『かつてない危機的状況』 を 乗り越えていくのだ。

 

車中張り込みが終わると、 敦子さんと一緒に 車を降りて 人目につかないよう 工事系の作業服に着替える。 次回調査のための 準備だ。

「今日は、対象者の 動きがなかったけれど。 最後に、やっておくことがあるからね」

敦子さんの言う “やっておくこと” が 具体的には わからなかったが、 気になる点は すぐに思い浮かんだので 質問したりして、 映画でしか みたことがないような (ん? 映画でもみたことがないぞ…)、 ちょっとした “工作” の 仕事を教わる。

すぐ後ろを 通行人の親子が 同じ方向に歩いて、 仲睦まじい様子で 話しながら 路駐してある我々の車を過ぎる。

「おかぁさん、 このくるま どうしてこんなところに とめてるの?」

「なにかご用事が あるんでしょうねぇ~」

勘のいいガ〇は嫌いだよ。 って、なにかの 漫画で読んだことがある。 私はすこしだけ ヒヤヒヤとじわじわの混ざった ヘンな気持ちでいたのだが、 敦子さんが男の子に ふり返って言う。 

「おシゴトだよ~!」

ぽかんとする男の子と、 「お仕事ですって」 と ほほ笑んでいるお母さん。

向き直った 敦子さんのボブヘアーが ファサーとなったときに、 最近流行りの   “インナー刈り上げ” が垣間見えた。 …めちゃくちゃ、ロックじゃぁないか。 道理でおさまりが良いわけだ。 …じゃ、なくて。

“ 恐るべし、子供の好奇心……!! “

私は思わず カメラの入ったポケットに そっと、 手を突っ込んでしまった。 いやいや、何故隠す。 わ、わたしは立派に おしごとをしているのだ!

作業のひとつひとつ、 慣れないうちは 余計にハラハラしてしまう。 敦子さんは一体、 これまでにどれほど ロマンあふれる任務を こなしてきたのだろうか。 まるで映画みたいだと 感激する私とは 温度差があった。 

 

現場を離れて、 誰もいない駐車場の ブロック塀を眺めながら ぬるい夜風に当たる。

「まだ自覚は無いと思うけど―――」

“もう既に、映画の中の世界にいるのよ“

ニヒルな笑顔で そう言った 敦子さん。 

ここ数年で 一番脳裏に焼き付いた 場面かもしない。 (数年前に車で 自損事故を 起こしたときの衝撃と 同じぐらい、 ドォン!という音がした。) 今目の前で おきていることだって、 フィルム・ノワールのワンシーン さながらである。 (あ、違法な調査は いたしません。)

 

うむ、そうだなぁ。 ここで敦子さんが 咥えタバコをして、 自分がコルト・パイソンあたりを カチャカチャ弄り始めれば、 探偵群像劇の できあがりだ。 (あ、探偵の武器は 銃ではなく カメラです。)

 先輩。自分、 はやく一人前になって 最高にハードボイルドな バディになりたいっす。 

あと近日中に、 襟足 刈り上げときます!

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