駆け出し探偵記6

探偵はチームプレーである。　徒歩、車、バイク、自転車。　
対象者の人数や交通手段、　状況によって　都度配役が変わる。

調査当日、　はやめに現地に集合して　作戦会議で配役を決めたり、　手のあいた調査員が　事前に予備調査をしてきたり。　

それぞれの特技が活かされたときには、　オ〇シャンズみたいで　壮快なのだ。

バイクが無理なら車を極める

私は今日も車要員。　今どきの キャシャーン ※華奢 男子ゆえ、　バイクに潰されてオワるわけにはいかない。

敦子さんはしばらく　私と一緒に車中張り込みで、　対象者が自宅を出て　自転車で移動を始めたら車に積んだ自転車を　降ろして　ベタづけで追う役だ。　いよいよ尾行がはじまる。

自転車を車から降ろす　敦子さん。　今日の服装は　いつにもまして　カジュアルだ。　

スポーツブランドのロゴが　あしらわれた　セットアップなジャージースウェットの後ろ姿に　声をかける。

 

私 「敦子さん、なんか今日…　“散歩中の人” ッス。　風景になじめそうですね！」　

 

敦子さん 「 今日のテーマは――

“ 爆買い中国人のコスプレよ。 “

　今日も今日とて　センスを極めた　先輩の背中を追いかける。　

 

ジョーシの苦手はおさえておきたい

いや、いじっているのではない。　得手不得手は誰にでもあるし、いざという時に上司を助けようとするのが、　真の可愛い部下だと思っている。

スマホで報告文を打つ上司。　「●」 の記号を打とうとして、苦戦している様子だ。

“ きーごーう。　

………。

くー…ろー…まー…る っ。 “

やっとのことで入力された 「●」。　私は、思わず横から　余計な世話を焼いてしまった。

私 「ジョーシ。　“まる” で、出ますよ？」

上司はハッとしてスマホを打ち直す。　　「ほんとや！！！！」　と　まるで化石を掘り出した　みたいな顔をした。　おかしくなって、　私は思わず吹いてしまった。

 

上司 「おい ギョニお、ばかにしたな～？　そんなにいじるなよ～～！笑」
私 「すいません！　あのっ馬鹿にしてないです！　癒されたというか、　じんわり胸が温まって！」

 

ジョーシが、　「なんて言ったら伝わるかな」 って考えながら　コンピュータに一生懸命　話しかけて、コンピュータがそれに　「はいはい。 ●のことねー。ｗ」 　 って答える。　

その不慣れで初心な掛け合いが、　非常に尊いのである。

 

 

苦手克服の雑な切り口とその問題点

敦子さんは、ししゃもが嫌い。　子供の頃に無理やり食べさせられた　トラウマなのだとか。たしかに　白目むいて死んでるし、苦いし。　キョーレツな記憶となるだろう。

私は子供の頃　辛いものが好きではなかったが、　今では無心でトムヤムクンを食べる。

一人暮らしをはじめて、　料理に興味が無いあまり　ろくに調味料もつかわず　食材も変えない食生活を10年続けた結果だろうか。　好き嫌いの概念が　はじめから無かったと　分かったのである。　　

…という話を敦子さんにして　ギョニお式淘汰法　を勧めたのだが、　トラウマ対処の　有効性が無いということで　却下され、　しかも敦子さんはもっとすごい方法を考えていた。

“ 台湾○○にすれば  なんでも 美味しくなるんじゃない？“

ししゃもの総菜の　パッケージに、　ふせんで「台湾」と書いて　貼り付けるという克服法。

たしかに台湾のパイナップルケーキは美味しい。　さすが、尊敬する先輩。　発想が只者ではない。　

…残念ながら検証結果は、　根本の解決に至らなかった。 　オェオェ言いながら　頑張ったのに。

私はむしろ、　彼女の今後が　心配になってきた。

“  台湾の文字を見ただけで ししゃもの味 思い出すんじゃない？“